現代の日本酒造りに求められているのは、その精神である。富山という土地に育まれ、豊かな自然の恩恵を受ける酒造り。変わるべきものと守り続けるものを、ただひたすらに追い求める。「想い」を「カタチ」に・・・・・・。酒造りに取り組む人の気持ちが、味そのものといえるのでしょう。簡素化、オートメーション化されたこの時代に、そんな人間味ある、そして富山らしいそれぞれの味わいを伝えます。
(情報提供:月刊Takt 2011年2月号発行号より)
千代鶴酒造
辛口でありながらも優しく、飲み飽きず、なぜか懐かしさがこみ上げてくるお酒「千代鶴」。縁起のいい名は、かつて鶴が舞い降りる田んぼが蔵の裏にあったことから付けられた。江戸時代末期から続くとされる蔵の規模は、決して大きくない。しかし、だからこそ隅々まで目が行き届き、どの価格帯のお酒も分け隔てなく、手間暇をかけて手造りができるのだ。「料理に合い、どんな人が飲んでも美味しいと言ってもらえるようなお酒を造りたい」と話すのは、家業を継ぎ、杜氏を目指しながら仕込みに精を出す黒田一義さん。「千代鶴」に息づく基本を守り、さらなる質の向上を目指しながら、「恵田」(えでん)という名の新しいお酒にも取り組む。もともと早月川の伏流水をはじめとした名水、そして、米は県内産にこだわってきたが、このお酒には、地元で自ら育てた有機栽培米を使用。酒造りの奥深さや難しさを痛感しつつ、試行錯誤を繰り返す32歳は、今日も真剣にお酒と向き合っている。
●千代鶴 特別本醸造[720ml 1,210円]/純米吟醸よりも辛口で、すっきりとしている。とくに、魚と相性がいい。
●恵田[900ml 2,300円(数量限定)]/豊かな甘味が感じられ、芳醇。トロッとボリューム感があるのも特徴的だ。
●千代鶴 純米吟醸[720ml 1,790円]/優しい味わい。だしの効いた煮物や岩ガキ、クリームチーズなどにも合う。
●しぼりたて[720ml 1,100円]/12月中旬から出回っている新酒。肴なしで、そのままでも楽しめる深い味。
創業年は明治7年頃といわれており、ずっとこの場所で酒造りを行ってきた。
櫂で仕込みタンク内をかき混ぜて、中身が均一になるようにする。
千代鶴酒造
滑川市下梅沢360
TEL.076-475-0031
http://www.chiyozuru.com/
三笑楽酒造
冷たく澄んだ五箇山の空気に包まれた蔵で、真っ先に目に入ったのは、湯気が立ち上る大きな和釜。お湯を沸かし、その上にセイロのようなものを載せ、洗って適度に水を吸わせた米を蒸すのだ。和釜には、質の良い蒸し米を造る先人の知恵が詰まっている。以前はどこでも見られたが、今ではほとんど使われていないとか。「笑って楽しく飲んでほしい」との思いが込められた「三笑楽」。ブナの原生林が育んだ柔らかな湧き水と、城端地区産といった良質な米を使用したうえで、仕込みは、自然の菌を生かして発酵させる伝統的な山廃で行う。いくら手がかかっても、山菜や味の濃いものが多い地元の食とのバランスがとれるのは、しっかりとした味わいで、骨のあるお酒。そのためには、どの要素も欠かせないものだ。「もろみが出す音に耳を傾けて、今日は元気だな・・・とか、五感をフルに使いますね」とは、杜氏の山﨑英博さん。一部に機械は入っても、肝心な部分は、昔ながらに人の感覚が大切なのだ。
●三笑楽 大吟醸[720ml 3,200円]/一緒に食べる料理の旨みを引き立ててくれる。丹後産[山田錦]を使用。
●三笑楽 純米酒[720ml 1,300円]/城端地区産の「五百万石」を使った、しっかりとした主張を感じるお酒。
●三笑楽 一般酒[720ml 887円]/日常の晩酌に飲まれることを意識したもの。濃い味の料理にも負けない力強い味わい。
朝早くから火を入れ、和釜でお湯を沸かす。良い蒸し米造りには不可欠。
三笑楽酒造
南砺市上梨678
TEL.0763-66-2010
http://www.sansyouraku.jp
富美菊酒造
普通酒以外は、すべて最高級酒である大吟醸と同じような手間をかけて酒造りを行う。例えば、米は手で洗った後、小分けし、水を吸わせる時間を秒単位で調整。当然、仕込める量は限られてしまうが、口に含んだ時の香りや喉ごしがよく、キレイな余韻が残る美味しい酒造りのためには、譲れないことだという。保管もタンクではなく、ビンに詰めた状態で品質を管理。杜氏として酒を仕込むのは、蔵元の羽根敬喜さんだ。「こだわると、キリがない世界。ただ、心を込めて一生懸命造れば、お酒に伝わる気がします」。予想外の経過を経ながらも素晴らしい出来栄えとなり、神様が下りてきたのでは・・・・・と、思うこともあったとか。そんな謙虚さが、味にもにじみ出ているように感じた。
●羽根屋 富の香仕込[720ml 1,450円]/県の開発米「富の香」を使用。ふんわりと優しいフルーティーな香がする。
●羽根屋 限定あらしぼり[720ml 1,400円(12月下旬~1月初旬)]/この時期ならではの、季節限定品。味わい豊かで、米の旨みが際立つ。
●羽根屋 純米槽しぼり[720ml 1,365円]/もろみを入れた袋に手で圧をかけてしぼり、雫だけを詰めた辛口のお酒。
●富美菊 本醸造しぼりたて生酒[720ml 1,250円(季節限定品)]/米の旨みが見事に引き出された一品。まろやかな味わいや深いコクが特徴。
富美菊酒造
富山市百塚134-3
TEL.076-441-9594
http://www.fumigiku.co.jp/
吉乃友酒造
本来、日本酒とは、米と米麹、水だけで造る、いわゆる純米酒であった。ところが、戦後、米以外で造ったアルコールを加えるものが主流に。そんな酒造りに疑問を持った「吉乃友酒造」は、いち早く本来の日本酒へとシフトして行き、今では製造量のほとんどが純米酒。しかも、米や水は地元のものにこだわる。また、毎日の晩酌で気軽に飲める価格と味でありたいと、努力を惜しまない。ただ、いくら理想的なお酒を造っても、日本酒離れが進んでいる現状は否めない。代表の吉田満さんは、お洒落な角瓶の採用や、季節の食材に合うお酒をわかりやすくラベルで示してスーパーマーケットで展開するなど、柔軟な発想で対策を練る。「とにかく地元の人に、美味しく飲んでもらいたいです」。
●よしのとも 純米吟醸[720ml 1,890円]/穏かな吟醸ならではの香りが広がる逸品。白えびの刺身などとの相性がいい。
●よしのとも 純[720ml 1,050円]/後味がすっきりとしていて、フクラギやアオリイカの刺身といただきたい。
●よしのとも 山廃古酒[720ml 1,680円]/焼肉やステーキ、鶏のから揚げといった、肉料理とも調和する味わい。
●よしのとも 角瓶[300ml 578円~1,575円]/好みの「よしのとも」を入れ、オリジナルラベルで作ってもらうことも可能。
明治10年から酒造りを始めていて、現在の蔵元は、5代目となる。
吉乃友酒造
富山市婦中町下井沢3285-1
TEL.076-466-2308
http://www.toyama-smenet.or.jp/~jun/
玉旭酒造
「おわら娘」や「風の盆恋唄」など、八尾らしいお酒を造り続けてきた「玉旭酒造」。蔵では、その日の献立に合わせて選んでもらえるよう何種類ものお酒を造っているが、なかには、5年前も杜氏となった玉生貴嗣さんが創り出したものも。高山植物の酵母を使った「月の蜜」や、チューリップ酵母使用の「咲いた咲いた」などである。洋食や中華の日もあるのだから、あえて和食に合わないものを・・・・と、酵母から独自で開発。しかし、それは、伝統の味を守ってこそ。「新酒をお客様にお届けすると、以前と比べてどうかなど、さまざまな感想をいただきます。お叱りを受けることもありますが、気にかけていて下さる証拠。うれしいです」。200年もの蔵の歴史は、大勢の人の支えの賜物なのだ。
●玉旭 にごり酒[1.8ℓ 1,890円]/ほんのりと甘味があり、ロックで飲むと味わいが変化。焼肉などに合う。
●おわら娘 上撰本醸造[1.8ℓ 1,927円]/淡麗な中に、コクと旨みを感じる辛口のお酒。熱燗で飲んでも美味しい。
●おわら娘 秀撰本醸造[1.8ℓ 1,713円]/辛口本醸造の普及タイプ。晩酌で気軽に飲める価格ながら、味は本格派。
●おわら娘 大吟醸[1.8ℓ 3,570円]/上品な口あたり。刺身や焼き魚、煮物が食卓に上ったときにおすすめ。
八尾の街中にあるとは思えないほど、内部は広い。予約で見学もできる。
玉旭酒造
富山市八尾町東町2111
TEL.076-455-1331
http://www.tamaasahi.jp/
林酒造場
深い歴史を感じさせる、見事な佇まいの「林酒造場」。朝日町にあった境関所で働いていた創業者が酒造りを始めたのは、1624年という。蔵の中には、広く大勢の人に飲んで欲しいと、先代が取り入れた大きな機械がある。けれども、現代表の林洋一さんは、あえて減産。地元に根ざした美味しい酒造りをじっくりと行うために、方向転換をしたのだ。その一方、入善の海洋深層水で仕込んだ吟醸酒や、ホタルイカの素干しをセットにした「ほたるいか酒」など、新たな試みも積極的に行ってきた。いずれは、息子さんが継ぐ予定で、何かチャレンジの申し出があったら、サポートしたいとか。ただ、根底に流されているのは、確かな伝統。歴史の裏打ちがあるからこその、挑戦なのである。
●黒部峡 純米吟醸[720ml 1,410円]/奥深い味わいと豊かな香りが楽しめ、干物や珍味、刺身、鍋物などと合う。
●黒部峡 大吟醸[720ml 2,700円]/クセがなく穏かで、飲み飽きない。平成21酒造年度金沢国税局金賞受賞。
●黒部峡 入善海洋深層水仕込[720ml 1,890円]/健康志向を意識し、海洋深層水を60%使用。熟成させ旨みを引き出した。
●黒部峡 純米吟醸 [スリム375ml 927円]
趣ある看板とスギ玉が印象的。建物は「富山の近代歴史遺跡百選」の一つ。
林酒造場
朝日町境1608
0765-82-0384
http://www.hayashisyuzo.com/
皇国晴酒造
黒部川扇状地の湧き水の豊かさや清らかさは、県内在住の多くの人が知っているはず。生地のいたるところで湧き出しているが、その一つが「皇国晴酒造」の敷地内にあると言えば驚く人も多いのではないだろうか。蔵元である岩瀬家の先祖が良質の水を探し求め、見つけ出したのがこの地だったという。実際に「岩瀬家の清水」として、名水の認定を受けている。
黒部峡谷に実在し、音はするけれど全体像を見た人がいないとされる滝をモチーフにした、代表銘柄「幻の瀧」には、仕込みにこの水を使用。素材のよさに、一つひとつの工程をじっくりと真摯に行う蔵人の技、そして、思いが加わったお酒の美味しさは、言うまでもない。今晩もまた飲みたいな・・・・・そんな気にさせる名酒だ。
●幻の瀧 大吟醸[720ml 2,247円]/軽やかな飲み口で、フルーティ。日本酒を飲み慣れない人にもおすすめ。
●幻の瀧 純米吟醸[720ml 1,323円]/奥行きのある程よい香が特徴の、通向きのお酒。米の旨みが直に伝わる。
●名水の蔵 特別本醸造[720ml 945円]/特別純米酒と同様、低温発酵させた吟醸造り。冷やしても燗でも美味しい。
●名水の蔵 特別純米酒[720ml 997円]/味にキレと幅を持たせることで、飲み飽きしないお酒に仕上げられている。
もろみの発酵の際には、音楽をかけるという試みなどもしている。
皇国晴酒造
黒部市生地296
TEL.0765-56-8028
http://www.mabotaki.co.jp/
成政酒造
「成政」の水には、武将・佐々成政がヤリを突き、そこから湧き出たと伝えられる医王山の名水を使用。米は、富山を代表する酒米の産地である南砺市の蔵らしく、地元で契約栽培を行うなど、「山田錦」以外は県内産を使っている。杜氏の林成明さんは、「長く続く『成政』の味を引き継ぎ、想いをつないで行きたいです。そのためにも、どんなことにも手を抜かず、一生懸命に手を尽くします」と語る。しかし、新酒ができても終わりではない。ほとんどが1~2年寝かせてから出荷されるのである。熟成させることで味にまろみが出て、飲みごたえのある通好みのお酒になっていくのだ。かけられる年月と蔵人の心、さらに、熱いファンの気持ちも、美味しさの秘訣かもしれない。
●成政 純米しぼりたて[720ml 1,260円(期間限定)]/中に酵母が入っていて、発酵が進むため微炭酸に。新酒の季節のみの味。
●なりまさ 大吟醸[720ml 3,150円]/低温熟成させた「成政」を代表する銘酒。華やかな香りとキレのよさが特徴的。
●成政 純米無濾過生原酒[720ml 1,575円(期間限定)]/しぼったお酒をそのまま瓶詰め。濃厚でしんのある深い旨みは、通好み。
杜氏の林さんも含め、4人の蔵人全員が力を合わせ、酒造りに励んでいる。
成政酒造
南砺市舘418
0763-52-0204
http://www1.tst.ne.jp/narimasa/
高澤酒造場
氷見の海風を招き入れ、蒸し上がったばかりの米を冷やす様子は、「高澤酒造場」ならではの光景。「曙」というお酒の名前は、氷見から見える、富山湾ごしの立山からの日の出を表わしたものだ。明治5年の創業以来、地元に根付いた酒造りをしてきた。珍しいのは、すべてのお酒を「槽しぼり」で造っている点。袋に入れたもろみが、自身の重みで自然にしぼられるという伝統的な方法で、県内ではここのみ。労力がかかるけれど、氷見ならではの魚介や料理の味をさり気なく引き立てる、ふんわりと口当たりのいいお酒に仕上がるのだ。蔵元で、杜氏でもある高澤龍一さんは、34歳。「同世代の人達にも地元の文化として、地酒の美味しさ、よさを知ってもらいたいですね」。
●獅子の舞 純米吟醸[720ml 1,731円]/やや酸味が効いていて、脂ののった旬の魚と見事な調和をみせてくれる。
●有磯曙 純米大吟醸[720ml 2,546円]/吟醸香と米の旨み、そして酸味のバランスがよく、飲み飽きない。
●AKEBONO 純米吟醸[富の香][720ml 1,735円]/富山の米[富の香]を使用。ほどよい甘味と香りが、料理と杯を進ませる。
●有磯曙 純米原酒[720ml 1,470円]/熟成させてあり、魚や氷見牛などとも合うが、お酒だけでも楽しめる。
時間帯は限られるが、事前予約があれば見学にも応じてくれる。(個人のみ)
高澤酒造場
氷見市北大町18-7
0766-72-0006
http://www1.cnh.ne.jp/akebono/